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日々の労働が辛い僕の体験まとめノート

読書感想-『虐殺器官』

今更解説も不要。そんな有名な作品

読もう読もうと気になり続けて早数年、映画化の際にも読まないままきて、最近ようやく読み終える。

 

ハードなSFでもあるんだけれど、その書き方のおかげか

どこか儚さとか寂しさを覚える、独特の雰囲気が印象的であった。

 

完成度の高いSF

近未来的な世界観の中で展開される物語は、確かに良質なSF

主人公が所属する特殊部隊の使用する装備を始め、人工筋肉、脳機能のマスキングなど、SF好きをワクワクさせる世界観や設定がある。

 

個人的に特に印象深いのが、痛覚をマスキングする事で、痛いのは「分かる」が「感じない」兵士達が

体がボロボロになっても撃ち合いを続ける、ゾンビのような戦闘シーンだった。本作で描かれている

テクノロジーと倫理観的なものとの致命的なズレのような感覚を覚えた。

 

SFとして高い完成度があるものの、主人公の内面を語るような描き方からは、どこか寂しさ物悲しさのようなものを感じる

なので、虐殺器官というインパクトのあるタイトル、そのあらすじに釣られ読み始めた当初は

そのアンバランスな感じに驚きつつ、どこか読むのが癖になっていったという感覚だった。

 

虐殺器官とは

僕は当初、虐殺器官とはテロに対抗する兵士を育成する為に、何かしらの施術によって後付けされるものだと思っていた。

だから、それが人類の脳に元から備わっていた、言語を媒介とする機能であるとの種明かしには

綺麗に騙されたような、転がされたような気持ちになった。

 

そして、作品の中で幾度となく登場する「耳は瞼を持たない」といったフレーズや表現がここで効いてくる。

知らず知らずのうちに、本作で虐殺の文法とされるロジックにより語られる言葉の影響を受け

数年前まで平和を維持していた国々が、突如内戦と虐殺の世界へと化していく

一見小説的な設定のようにも思うがしかし、マスメディアや広告から僕が日々触れているSNSまで

常に言葉に囲まれている現代では、むしろアリ。というか、本作が出版された当時よりも今

今よりも今後の方が、よりリアルでその影響力・恐ろしさのようなものを発揮するのではないか。

 

最後、主人公がこの虐殺の文法を用いて、祖国のアメリカを内戦と虐殺の坩堝に叩き込んでいく場面は

僕自身がそういうバッドエンド寄りの結末が好きというのもあるけど

本作で描かれる世界と虐殺の文法と内戦と主人公の過去や考え、そういったものに浸かりきった後では

その終わり方がとても綺麗にすら思えるのは、やっぱり不思議な感覚だった。

 

おわりに

言語という、今のところ我々の生活とは切り離せないものが、このハードなSFの中核に据えられているのは

個人的にはどこかアンバランスさを感じるし、同時にその不安定さが強烈な個性に思う。

読んでいてとても面白く、厚さもそれなりだが全く気にならなかった。

 

あと、本作中には沢山の本や作家の引用が散りばめられているので、新しい興味のきっかけになったり

ちょっと頭が良くなった気分にもなれる( 笑 )