『天使の囀り』 苦手注意とネタバレが紙一重でも勧めたい -読書感想
(久しぶり引っ張り出したらカバーが行方不明に…)
ジャンル:ホラー
何が原因か分からないけど、恐ろしい事が起きている
このような不気味さが漂うホラー小説に出会えると嬉しくなってしまう。
本作を初めて読んだのは中学生の頃。当時はその展開に、すげー!と思ったが
今読んでも、この不気味さとその元凶が判明する下りは読みいってしまう
感想
死恐怖症の恋人が、アマゾンの取材旅行から帰国後、恐れていた死に取り憑かれ
その結果、不可解な自殺を遂げてしまう。
しかも、恋人と同じ班で行動していた人々も、不可解な自殺を遂げていた
そんな、不気味かつホラーとして期待をぐいぐい煽る中で始まる本作
原因が分からない面白さ
本作の面白さの一端は、序盤~中盤の原因が掴めずに分からないところにある。
奇妙な自殺が点在している。全員アマゾンで活動していた。しかし、そこから先へと中々進めない
呪術的なものなのか悪霊でも連れてきたのか、しかし展開は科学寄りだ???といった読書の考えを惹き付ける雰囲気が抜群。
各被害者の自殺当時の状況が明かされていくにつれ、その度合いは強くなり、早く元凶が知りたくて仕方なかった(笑)
交差する二つの視点
本作は、主人公の他にもう1人、フリーターの青年が主要な人物として登場する。
この奇妙な事件の謎に、その青年目線では内側から、主人公は外側から迫っていくという
この構成により、主人公が様々な調査をしている裏で確実に存在し、同時進行する恐怖が浮き彫りになる
この青年の設定には、一部当時の偏見めいたものを感じてしまうが
ちょっとしたきっかけから、日常が変化し狂気に捕らわれていく内容は、主人公パートよりも迫る物があった
おわりに
本作の、日常ありえる事柄を題材に組み込み、それが変貌していく様はまさにホラーの面白さがある
また、それを可能とするギミックがとても印象に残るものなのだが、それはある人には嫌悪感も抱きそうなもので
かつ、ネタバレに直結するので、事前の注意も出来ないという難易度。
面白いんだけど、中々勧めるのが難しい1冊…
下にネタバレを含む感想があります。
- 作者: 貴志祐介
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2012/12/04
- メディア: Kindle版
- 購入: 2人 クリック: 1回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
- 作者: 貴志祐介,酒井和男
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2000/12/08
- メディア: 文庫
- 購入: 19人 クリック: 163回
- この商品を含むブログ (93件) を見る
ネタバレを含む感想
寄生した生き物が恐怖や不安を感じると、それを快感に転換する働きを、その脳内で行う新種の線虫
そんな小さな存在により、恐怖対象への箍が外れた結果(恐怖すればするほど快感が強くなるため)
自ら率先して恐怖へ近付き、奇怪な自殺へ至る者。体内の線虫が一定の段階に入る事で生きながら線虫の巣へと変貌する者
本作には、そんな人間が溢れてしまっている
線虫を脳内に寄生させる事で、恐怖や不安から解放されるが
それは果たしてその人本人なのか、それとも線虫の操り人形なのか
ホラー小説のギミックとして線虫を使う発想は、序盤~中盤の面白いけど、よくあるホラーを感じたところで
終盤に、驚きをもって登場し効いてくる。そんな新鮮な面白さが印象に残る
『ルパンの消息』 ミステリー×青春が苦く面白い-読書感想
ジャンル:ミステリー
妙な拘りを持っているサイコな殺人鬼、ドヤ顔で事件を解決する名探偵、組織と戦う警察官達
どれもミステリ小説では欠かせない要素であるし、僕もだいたいこの3つをイメージする。
本作はそれらとは、少し違う。青春という要素が入る事で加わった、ちょっと苦い思い出感
殺人事件も血なまぐさくない。そんな独自の世界観が好き
感想
15年前に発生し、自殺として処理された女教師の死亡事件
時効前日に、その事件は殺人事件であるとの情報が寄せられ、捜査が始まる。
どこか懐かしい
本作の主要パートの1つ、取り調べ室での15年前の回想(供述)
3人の不良が中心となって進む。僕はそういう世界とは全く無縁の学生時代だったから
本来なら、共感出来るところなどないはずなのに、読んでいて何か懐かしい。
なぜ?と思ったが、何と言うか高校時代特有の勢いとか雰囲気とか
あの頃だからこそのあの感じが文章から伝わってきていたからだった。
こういう感覚がスッと入ってくる感じ、確かに青春ものだ。
ミステリー要素が生きる構成
では、ミステリ小説としてはどうなのかというと、こちらもしっかりミステリ小説で面白い。
この女教師殺人事件については、気になる点が幾つら散りばめられている。それを事件当時(15年前)の視点と現在の視点
二つの視点でそれぞれ展開していく推理が面白い。
15年前
- 主体 不良少年(現代で取り調べを受けている)
- 死体を発見し、事件に直接触れた当事者視点での調査・推理
現代
- 主体 警察
- 関係者の証言、過去の記録の洗い出し。現在の視点から過去の事件を捜査する。
大雑把に分けるとこのようになっており、回想パートで当時の状況をなぞり
現代パートで、不良達が当時知りえない証拠や証言を発掘し、事件が肉付けされていく
15年も前に一度終わった事件が徐々に姿を現してくる過程は、謎解き要素的な部分もあり読んでいて面白かった。
おわりに
不良少年の青春時代の出来事をベースに、1度は自殺として処理された事件が実は殺人だったという
見だけで惹かれてしまう要素が、しっかりとミステリ小説として描かれており、色んな味のある作品だった。
また、時効という制度を活用した、タイムリットがある故に二転三転する終盤は
これも一つの時効ものの醍醐味といった感があったのも新鮮。
厚さはいつものように、文庫版でもそれなりにあるが、そんなの気にならないくらい楽しかった。
『ライアーズ・ポーカー』面白い、実話系 投資銀行物語 -読書感想
ジャンル:ノンフィクション、経済
米国ウォール街の大手金融機関。そこでは、どのように仕事がされているのだろう?
という興味や疑問に対して、本書を読むと得られる回答は中々強烈だった。
まさに、狂乱の日々
感想
1980年代末、大手金融機関ソロモン・ブラザーズの隆盛を、元社員である筆者自身の職場経験と社内外の状況を元に描く
全てはボーナスのために
投資家のお金を扱い事の大切さ
職場への忠誠心を持つ事の大切さ
そういった事はさして重要ではないらしい。
求められるのは、自分がいくら稼ぎ出すのか。そして、給料と年末のボーナスの金額が全てと言わんばかりの勢い
全ての動機がそこに直結しているので、取引で吹っ掛けようが、ライバル会社へサクッと転職しようが
トラブルが起ころうが、行動は一貫してるように見える。むしろ、清々しさすら覚える
イメージがことごとく破壊される
ノンフィクションであるにも関わらず浮世離れし過ぎて、もはや小説の世界に片足を突っ込んでいる感すらある本書
真剣に業務をしている場面と同じくらいにに、トレーダー達の悪ノリや悪態といったネタ要素が光る
筆者のユーモア溢れる文章も手伝い、全体的に面白おかしく読む事が出来る
(その裏では数百万~数億ドルが流れ続けている)
「これが本当に数百万ドル稼ぎ出す人達なのか…?」と何度も首を傾げる
特に、筆者が入社直後の研修生時代に、次々と登場する緩やかにどこか狂っている
強烈な個性を放つソロモン社員達との場面が印象深い
おわりに
モーゲージ債、ジャンクボンドなど新手の債権と金が飛び交うようになった1980年代末のウォール街の情勢。
その内容は興味深く、ソロモンを中心としウォール街を描く事で、全体の大まかな流れが追える
それにソロモン内部の狂騒の日々を加味し、一つの物語としても面白いところが、本書の魅力であると想う。
専門用語等については、随時説明もあり親切
だが、それでもある程度の基礎知識があれば、尚わかり易い
文庫サイズにしては少し厚めだけれど、内容の面白さはオススメしたい
『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』 金融危機が、面白い-読書感想
ジャンル:ノンフィクション
「100年に一度」とか「世界恐慌の再来」とか言われている通り、悪いイメージしかない
ところが、その金融危機で大金を稼いだ側に視点を移すと、途端に面白い物語になった
感想
本書は3つのファンドと、1人の投資銀行員を
中心に据え展開していく。
各陣営の取った戦略とその中にあるドラマを描きながら、当時の市場が抱えていた問題・おかしな点も解説する
個性が炸裂する登場人物
各陣営のキャラクターが強烈なだけでなく、それに裏付けされた分析、哲学、行動どれもが四者四様でオムニバス感すらある。
市場が好調な中、その反対を行くかのような
アウトロー達が、最終的に勝つ(大金を得る)
その流れは、金融を舞台としていながらも
ちゃんとエンターテインメントしている。
危機の実情に近付く
また、主要人物だけでなく
といった名だたる投資銀行や多数の機関へ行った取材により、当時のウォール街の状況やサブプライムローン問題の内情についても
詳細に知る事が出来る。しかし、知れば知る程にこのおかしな状況が加速し続けた事が、理解し難い
劇的なドラマと経済危機の二つの内容がある
そういう意味でも有意義な一冊だと思う。
おわりに
本書は僕のような、金融や債券取引に詳しくない人間でも読めるように、適時説明が挿入されている。
しかし、慣れていない分野のため、せっかくの盛り上げ所なのに、よく分からないまま通り過ぎるという事が多々あったのが悲しい。
特に、本書の主役とも言える債券の内容をイメージをする事が難しかった。(ローンをプールしたものを切り刻み販売する、など)
なので、読む際は分からない用語はすぐ調べる!、という基本がとても大事な一冊でもあった。
追記
2周目をしたら、大分内容も頭に入るようになり、面白さが一段と増した。
まだ、?な部分はあるけれど、それらを解消したら更に楽しくなりそう。複数回読む事が出来る本だ。
『殺しの双曲線』2つの事件が重なる真実-読書感想
ジャンル:ミステリー
西村京太郎と聞いて、土曜サスペンスの電車が走るCMが思い浮かぶのは僕だけでないと思いたい。
そんな氏が描く、土曜サスペンスのとは違ったミステリ小説ってどんなものなんだろう?という興味が出発点
感想
本作の舞台は、東京と東北の雪山の2つ。
片方は警察が、もう片方は宿泊施設に招待された客達。その、異なる立場や状況で起こる事件が交互に展開されていく。
2つの事件
東京での、双子による強盗事件
雪山での、連続殺人事件
この2つの趣が異なる事件がどう結びついていくのか?そんな悩ましさを抱えながらも、読み進めていくんだけれど
雪山ではシリアス気味の展開で殺人が繰り広げられるのに、打って変わって東京の強盗事件は
双子が使ってくるトリックのおかげで翻弄される警察が面白くもある。そんな対比から事件も楽しめる上
その構成がだんだん癖になってくる、ズルい仕様
トリックは双子
※ネタバレではありません
本作の冒頭で筆者から提示される。いわば、挑戦状のようなもの
今回も果敢に挑んでみるものの、確かに東京の事件はものの見事に双子による犯行だけど、ならば雪山の事件は???
とよく分かっていないうちに積み上がる死体。今回もダメでしたね…
この下りのおかげで、最後にスッと解答が入ってくるのが、また見事
おわりに
文庫本としては、普通~それなりの厚さであるけど、とても読みやすかった。
本作は、西村京太郎氏の作品では割と初期のものであるとの事。しかし、今読んでも十分に面白く、2つ事件が1つに纏まっていく
終盤の展開は、読みながらずっと抱いていた疑問を解消するに十分
しかし、個人的には良いと思ったけど、終わり方にスッキリしないものを感じる人もいるかもしれない
あと犯人が好んで使うマーク、被害者は勿論流石にその意味を咄嗟に気付く人はいないと思うなぁ(笑)
『完全改訂版 斜め屋敷の犯罪』そのトリックは一見の価値あり -読書感想
ジャンル:ミステリー
「バカミス」というジャンルがあるらしい
「バカなミステリー」の略ではなく、読者が
「そんなバカな!となるミステリー」との事
探偵 御手洗潔シリーズの第2作目となる本作は、そんなバカミスとして紹介されるのをよく目にし
バカミスの意味を、前者の方だと思っていた僕は初めのうちはネタ小説なのかな?と思っていた。
しかし、その正しい意味を、言葉上だけでなく自ら体感する事で知りましたね…。
感想
パーティへ参加するために、全体が斜めに傾いた奇怪な構造の屋敷へ集まる登場人物達。そして、発生する殺人事件
これだけ見れば、おかしな屋敷以外はお馴染みのクローズドサークルもの、屋敷ものの範疇である
序盤から、これからの殺人を予感させるポイントは幾つかありワクワクするが、本格的に事件が起き
後半に、御手洗潔が現れ引っ掻き回し始めるまでがちょっと退屈
バカミスの所以に触れる
本作の要であるトリックの種明かし
僕はその部分を月曜の朝の通勤中に読んでいたのだけど
(何故そんな大事な部分を、1週間で最も気分が死んでいる時間に読んでいたのか)
眠気が半分入り混じった状態から一気に目が覚めて二度見してしまった。
その内容を前にし、本作を読む際にこれだけは言うまいと決めていた、「そんなバカな」という言葉
簡単に飛び出してしまいましたね…
おわりに
緻密なトリックが明かされ、それまでの疑問が氷解する過程というのは、ミステリ小説の終盤において大きな楽しみであると思う
本作のタネ明かしはそういった緻密さを被った、大胆さ奇抜さで大きなインパクトがあった。
「こんなのありかよ」と思わず言ってしまう。しかし、その豪快が気持ち良く、それでいて作品は破綻していない。すごい
バカミスというものの面白さに少し触れられた気がする
関連記事
『ラバー・ソウル』心を揺さぶる読後感 -読書感想
ジャンル:ミステリ小説
ミステリ小説を読んでいると、その度に騙されてしまうのだが、大半はその真実を知り
驚きと、スカッとする清々しさを伴う。
しかし、本作に限って言えば、それらより切なさを強く得てしまうという初めての経験を味わう。
あらすじ
音楽雑誌へビートルズの記事を寄稿する以外に、社会との接点を絶ってきた男、鈴木誠。
そんな彼が、ある事故をきっかけに1人のモデルと知り合い、ストーカー行為を始める
感想
犯人を主役としたミステリ小説の中で、本作はストーカー犯が主役という内容
個人的に、この部分が気になって購入となる。どんな話が描かれているんだろう?って
構成
本作は鈴木誠視点のパートと、関係者の事情聴取パートが交互にやって来る
これにより、発生する出来事を主観と客観という2つの視点で、より深く捉えられる
また、タイトルにもなっている、ビートルズのアルバム『ラバー・ソウル』のように
本編をA面B面の2部に分け、その下に収録曲と同じ名の各章がぶら下がっているという、粋な構成
また、各章の切り替え時にも章名の入ったページが挿入され、雰囲気作りに一役も二役も買っていて、この時点で何かもう好き
鈴木誠
本作の主人公にして主犯
被害者のモデルに対して抱く気持ちなどは、よく報道されるストーカー心理そのものなんだけれど
描かれている趣味や考え方、ビートルズへの拘りなど、そんなに嫌悪感は抱かなかった
彼が被害者を守る為に孤軍奮闘する姿は、ある意味一途ですらある
まぁ、実際ストーカーなんだけれど
エスカレートするストーカー行為
鈴木誠は病気のため、社会との接点を絶ってきたのだが、家は金持ち
なので、その金を惜しみなくストーカー行為へ投入していく
(被害者住居の向かいに事務所を借りて、活動用に全面改装を行うなど)
初めは監視や無言電話から始まるストーカー行為だが、徐々にエスカレートする
その段階が上がっていく過程で起きる事件、そうなった理由など、読んでいて引き付けられる
そして、いよいよ最終段階へ突入
となった時点で迎える結末がまた…
気になった点
それほど生々しくはないが、ストーカー行為に嫌悪感がある人はお勧め出来ないのが残念
読み始めると気にならないが、文庫本ではちょっと気合いのいる厚さ
おわりに
ストーカーが主人公のミステリ小説って、どんな感じなんだ?
という本作を好奇心で手に取った。確かに読めば読む程犯人といった鈴木誠に
どこにミステリ小説要素が?とも思ったが(この時点でも十分に面白い)
被害者とその周りがストーカー犯の存在に気付き始めた時のジリジリ来る感じは、正にミステリ小説のそれだし
読んでるこっちまで何だか切なく、心揺さぶられてしまうような結末は見事としか言えない
読み終えた後に何回もため息をついてしまった。
「この小説の最大の魅力は、この読後感」という、書店員さんによる解説が全てだった。
(解説家とか作家による下手な解説よりも何倍も良い、読者のための解説だった)