『ラバー・ソウル』心を揺さぶる読後感 -読書感想
ジャンル:ミステリ小説
ミステリ小説を読んでいると、その度に騙されてしまうのだが、大半はその真実を知り
驚きと、スカッとする清々しさを伴う。
しかし、本作に限って言えば、それらより切なさを強く得てしまうという初めての経験を味わう。
あらすじ
音楽雑誌へビートルズの記事を寄稿する以外に、社会との接点を絶ってきた男、鈴木誠。
そんな彼が、ある事故をきっかけに1人のモデルと知り合い、ストーカー行為を始める
感想
犯人を主役としたミステリ小説の中で、本作はストーカー犯が主役という内容
個人的に、この部分が気になって購入となる。どんな話が描かれているんだろう?って
構成
本作は鈴木誠視点のパートと、関係者の事情聴取パートが交互にやって来る
これにより、発生する出来事を主観と客観という2つの視点で、より深く捉えられる
また、タイトルにもなっている、ビートルズのアルバム『ラバー・ソウル』のように
本編をA面B面の2部に分け、その下に収録曲と同じ名の各章がぶら下がっているという、粋な構成
また、各章の切り替え時にも章名の入ったページが挿入され、雰囲気作りに一役も二役も買っていて、この時点で何かもう好き
鈴木誠
本作の主人公にして主犯
被害者のモデルに対して抱く気持ちなどは、よく報道されるストーカー心理そのものなんだけれど
描かれている趣味や考え方、ビートルズへの拘りなど、そんなに嫌悪感は抱かなかった
彼が被害者を守る為に孤軍奮闘する姿は、ある意味一途ですらある
まぁ、実際ストーカーなんだけれど
エスカレートするストーカー行為
鈴木誠は病気のため、社会との接点を絶ってきたのだが、家は金持ち
なので、その金を惜しみなくストーカー行為へ投入していく
(被害者住居の向かいに事務所を借りて、活動用に全面改装を行うなど)
初めは監視や無言電話から始まるストーカー行為だが、徐々にエスカレートする
その段階が上がっていく過程で起きる事件、そうなった理由など、読んでいて引き付けられる
そして、いよいよ最終段階へ突入
となった時点で迎える結末がまた…
気になった点
それほど生々しくはないが、ストーカー行為に嫌悪感がある人はお勧め出来ないのが残念
読み始めると気にならないが、文庫本ではちょっと気合いのいる厚さ
おわりに
ストーカーが主人公のミステリ小説って、どんな感じなんだ?
という本作を好奇心で手に取った。確かに読めば読む程犯人といった鈴木誠に
どこにミステリ小説要素が?とも思ったが(この時点でも十分に面白い)
被害者とその周りがストーカー犯の存在に気付き始めた時のジリジリ来る感じは、正にミステリ小説のそれだし
読んでるこっちまで何だか切なく、心揺さぶられてしまうような結末は見事としか言えない
読み終えた後に何回もため息をついてしまった。
「この小説の最大の魅力は、この読後感」という、書店員さんによる解説が全てだった。
(解説家とか作家による下手な解説よりも何倍も良い、読者のための解説だった)