「天皇機関説」事件 我が国体を破壊する凶逆不逞の悪思想!断固撲滅! -読書感想
内容紹介とレビュー
ジャンル:新書、政治
1935年に起きた、天皇機関説事件
その概要と、各方面の反響
当時の情勢、主要人物にスポットを
当てながら、事件を解説をする。
また、この1件が
その後の日本へ与えた影響も分析する
良かった点
気になった点
- 機関説排撃派の態度に慣れるまでが中々しんどい
- 当時の日本の負の側面を表した内容であるため、読んでいる時の気分は重い
- 欲を言うと、もう少し突っ込んで書いて欲しかったところもある(求め過ぎか)
感想
[読むのがしんどい]
「機関説撲滅有志大会」
「世界に比類なき〜皇室の尊厳を冒涜し〜」
「国憲擁護!!凶逆思想排撃!!」
「反国体・排外奴隷思想の撃滅」
上記のようなアグレッシブな言葉が
全体に渡り乱舞しており
時代を超えた胸焼け気分になれる
それに慣れるまでが一つのヤマかも知れない
(でも「思想毒素」といった面白い言葉もあった)
[一つの学説を根絶するという野蛮]
本書はその対立と争いを書くものだが
それは全く論理的でも合理的でもない
もはや、宗教戦争の様相を呈している。
異なる学説(しかも通説)の存在を認めず
天皇機関説撲滅!根絶!をスローガンに
執拗に攻撃を繰り返す、反機関説派の
言動にはインテリ蛮族とでも名付けたい
後々巨大化していく国体思想も合わさり
立憲主義、個人の自由といったものを否定し
一つの思想に染め上げようとする集団が
躍動し、暴力と策略で理性的なものを
ねじ伏せていく過程は
「これは一体どこの国の話なんだろう
ひどい国もあるもんなんだなぁ」
と言う風な逃避が捗る
[国体思想という暴力装置]
万邦無比(他国よりも圧倒的に優れている)であり
全ての臣民は至忠至極をもって尽くすべき
(本書の読み込みが甘く上手く言語化出来ず)
という日本人であれば
等しく持っている考えであるあるという
本当か?
少なくとも今回の事件に際しては
立憲主義の停滞と暴力の理由付けしか
役立っていないぞ
[昭和天皇の意向を汲めない国体戦士達]
ある意味、今回の事件の当事者といっても過言でない
昭和天皇はどう思っていたのか?
自身は天皇機関説を支持しており
むしろこの運動に
不快感すら呈していた
それを度々近辺の軍部の者に伝えるのだが
まるでその意思が反映されていない
唱えるんなら
その絶対体的な主権者である天皇の意思は
絶対ではないのか?
なのにそれがキチンと反映されないのって
おかしくない?
という小学生でも気付く矛盾が
度々スルーされている
実際、昭和天皇も
「天皇主権説と言うけど、朕の意に
そぐわない事が
平然と行われているのって、機関説と
なんら変わらないんじゃないの」
という疑問を述べている
この1件だけでなく、五・一五事件や
それに続く
自分達の主張を通す都合の良いもの扱いしてるのは
むしろ、軍部ですよねって印象が拭えない
[まとめ]
本書で取り上げられた、天皇機関説事件は
正直、どこか異界の出来事を見ているような
気分になった。
現代の日本は、思想の自由が保障され
どんな憲法解釈を持っていても
それによって即誹謗中傷や自害要求等を
される事はない。
当たり前の事だけれど
それが当たり前でなかった時代が
80年前にはあった。
本書は天皇機関説事件から
日本が歩んでいく暗い道のりを知る
有効な手助けにもなるし
「こいつらバカだなーw」なんて
現代の価値観で笑いながら読む事も出来る
(筆者の望むところではないだろうが)
僕は本書を通して、暴力と偏った思想が
暴走しまくっていた景色を見て
悲しさと羞恥心が入り混じった
何とも言えない気持ちを味わいました。
[その他]
天皇主権説を倒閣運動に利用した
その結果、軍部の暴走を許す事に繋がり
暗殺されるって
歴史の因果出来過ぎないか
本事件の当事者、美濃部達吉
憲法改正に最後まで反対していたと
知り驚く