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日々の労働が辛い僕の体験まとめノート

発掘狂騒史 「岩宿」から「神の手」まで 日本考古学の歴史と共に見るゴッドハンド -読書感想

 

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内容紹介

ジャンル:ノンフィクション

 

本書はF氏による旧石器事件を

メインに据えているような印象を与えますが

その内容は、1949年の岩宿遺跡の発掘

その発掘の中心的な人物の出会いまで遡り

そこから現在までの日本考古学の歴史を見る

といった内容になっています。

沢山の人物が登場し、群像劇のようでもあり

それは2000年の捏造事件に繋がっていく

 

日本考古学の流れを知る上では貴重な過程も

研究者の過去まで興味ないっといった方には

序盤が少し退屈かもしれません

 

最後の捏造事件の部分だけでも楽しめるので

その辺りは読者の取捨選択ですね

 

全編、丁寧な取材と

余計な推測等はいれず

筆者の事実を尊重する姿勢に

好感が持てます。

 

感想

「過去から遡る意味」

最初僕は、捏造事件について

知りたくて本書を買ったので

序盤から過去に飛んで以来

全くその話が出てこない事に

少し不満でした

(序章で少し登場以降、200ページくらい

出てこない)

しかし、読み進めていくと

日本考古学界の知識が補強され

(学閥、人物等)

その概要を知るだけでなく

後の捏造事件の衝撃を素人でも感じられる

土台が得られる事を読み終えてから知る

 

[なぜ気付かない]

誰しもが思ったであろうこの疑問

1人の人間に発掘が集中し過ぎており

発掘期間中に、その人間が来た時だけ

石器が出る

 

普通に考えたら違和感を抱く人が

少なくない数いてもおかしくないのに

それがずっと受け入れられ続けたのは

やはり異常としか

 

本文中にその説明として

  • 科学者は自分の欲しい発見があると信じてしまいやすい
  • F氏の努力を認める
  • 目の前で何度も発掘の瞬間を見ると信じてしまう
  • マスコミが異常に騒ぎ立てた

などの理由が挙げられているが

正直どれもピンと来ないし

一つの科学として必要な

チェック機能、自浄作用を

持っていないのでは

という疑問が浮かんだところで

 

「日本の考古学」

日本の考古学は科学

と言うより文学的哲学的な側面があり

ロマンを馳せる気風のような部分もある

という言葉が度々現れてくる

・・・マジ?

 

[猛烈な勢いで遡る年代]

 F氏の活躍により

初めは4万年万年が最古の発見であるのに

そこから、60万年前までどんどん下っていく

その発見も

  • 30km離れた遺跡から出土した石器同士が接合した
  • 原人が墓を作り埋葬した痕跡
  • 住居のようなものの跡

など、もはや石器レベルでもなく

また日本だけでなく世界の人類史すら

書き換えるような発見が行われている

 

ここまで来ると

少し遠くから、「やーすごいねー」

なんて気持ちで見始めてしまうけど

これが日本で起きた

ほんの20年前の実話なのだから

恐れ入る

そりゃ教科書も書き変わるし

改めてこの事件の意味が分かってくる

 

[まとめ]

日本考古学の歴史を見つつ

捏造事件に繋がる流れは一つの小説のようで見事

しかも、これがフィクションでないところに

ノンフィクションの面白さを感じる

 

捏造事件自体の重さは勿論だけど

それ以上に感じたのは

1度権威付けされてしまうと

我々が思っている以上に

すんなりと自分や世間に真実として

受け入れてしまうことの危うさ

 

今回の一連の捏造にしても

論文や学会など国際的に問う事もなく

そもそも発掘後の報告書も出ていないのに

考古学会の重鎮が権威付けをし

詳しく検証することなく

それに追随した結果教科書に載るという

事態にまでなっていた

 

プロであるはずの学者ですら陥る姿を顧みて

何かを疑うという視点の大切さを

改めて認識する

 

自分のよく分からないジャンルほど

その傾向が顕著であると思うので

疑う視点を持つという考えを

常に持っていたい

 

また、本書は石器の判定方法や

そのポイントについても書かれており

旧石器についての知識を得られる側面と

何よりも日本考古学界の

特に旧石器時代研究の流れをざっと掴む事が

出来るのは大きい

 

[あとがき]

本書の内容とは全く関係ないけど

今回の文庫版に収録されている

あとがきが好きでない

作家の方が書かれているのだけど

本書の取材と事実に裏付けされた内容に対して

作家的な比喩や表現が合わな過ぎて後味が悪い

あとがきなんて、読まなきゃいいと思われるかもしれないが

読んでしまったので一つ言いたかったのです。